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小竹長兵衛の眼鏡がこの上なく好き

コンタクトレンズ生活をやめて眼鏡をかけるようになったのが大学を卒業した頃。その少し前から黒縁の眼鏡がモード系のファッションアイテムとして取り上げられるのをよく目にしていたのがきっかけでした。

最初に買ったのは「泰八郎謹製」というブランドのもので、山本泰八郎という眼鏡職人によるハンドメイドものでした。しかし不注意で失くしてしまったため、そこから買い直したのが小竹長兵衛作の眼鏡フレームだったわけです。

鯖江の眼鏡職人・小竹長兵衛

国産眼鏡の産地で有名な福井県鯖江市にて活動されていた眼鏡職人のひとり。半世紀以上のキャリアを持つ職人で、同じく福井県鯖江市を本拠地とする金子眼鏡が1997年頃よりプロデュースしている「日本の眼鏡職人シリーズ」によって広く国内外に知られるようになりました。

そんな小竹長兵衛を知ったのは、眼鏡を失くして買い直しに行ったとき。泰八郎謹製も同シリーズのものということもあって、すぐ隣に陳列されていたのが「小竹長兵衛作」でした。

この時はまた泰八郎謹製を買おうと考えていたのですが、当時は今ほどお金に余裕がなかったため、(ほんの数千円ですが…)価格が安くて品質的にも同等な小竹長兵衛作を買うことにしました。要するに偶然の出会いというやつです。

ありそうで無いデザイン・芯を使わないから透明感を損なわない

SDIM1333 ※ 10年以上愛用している小竹長兵衛作の眼鏡。ライトグレーの透明感がたまらない。

「日本の眼鏡職人シリーズ」ではウェリントンやボストンといったベーシックな形だけでなく、それぞれの職人ごとに個性あるデザインのモデルが展開されています。小竹長兵衛作ではスクウェアとオーバルの中間のようなデザインのものが造られていました。似たようなものは他所でも見られますが、洗練具合がまるで違う「ありそうで無いデザイン」です。

また、非常に固くて丈夫なセルロイドを素材に使っており、テンプルの中に金属製の芯を仕込まない「ノー芯」という伝統的な製法でしか作らないため、透明なフレームとの相性が抜群です。

溶けた飴のような艶が特徴

文章で言い表すのがとても難しいのですが、フレーム全体を通して「角(カド)」というものが一切なく、まるで溶けはじめの飴窯の中で液状に溶けたガラスのような艶とシルエットで、とにかく美しいの一言につきます。泰八郎謹製のフレームも非常に洗練されていますが、こちらはもう少し力強くガッシリとした造りなのが特徴です。遠くから見れば何の変哲もないごくありふれたプラスチック製のフレームですが、実物を手に取って他の職人によるものや安価な大量生産品と比べると、丁寧な仕事っぷりと確かな個性が光ってるのがよく分かります。眼鏡好きなら分かるはずさ。

いま手持ちの眼鏡は三本ですが、うち二本は小竹長兵衛作で、どちらも10年以上使い続けています。

2014年に他界、後継者はいない

亡くなられたことを知ったのは2017年頃でした。後継者がいないためアフターメンテンナスは金子眼鏡が運営するファクトリーのスタッフ達で継続されていますが、今後この艶とシルエットのフレームが新しく作られることはもうありません。あるのは各小売店が抱えるデッドストックのみ。もともとそこまで生産数が多くないため、金子眼鏡の各店舗の在庫は早々に売り切れてしまったそうです。

工房には組立て前のパーツ類がいくらか残っていたらしいですが、それらも全て修理用として消費されてしまいました。つまり、僕がいま使っている二本は折れたら終わりということです。10年以上使っているわりには非常に良い状態をキープ出来ているようですが、確実に経年劣化は進んでいるためいつ壊れてもおかしくありません。まぁ、あと5年はなんとか使い続けてやろうと思っていますが。

静岡でデッドストック品が売られているのを知る

何気なくネットを徘徊してると、眼鏡をオンライン販売している web サイトを見つけました。何とそこには数十本の小竹長兵衛作の在庫が。ときどきヤフオクやメルカリなどで中古の眼鏡フレームが取引されていたりしますが、新品がこれだけ揃ってるのは見たことがありません。

web サイトは静岡にある眼鏡屋が運営しているもの。どうやら一年半ほど前に在庫として抱えていたものを全て放出することにしたようです。流石に10年前と比べるとだいぶ価格が上がっていますが、他の職人の現行モデルの価格改定にあわせただけのようで水増しではないようです。

いや、そんなことは問題じゃない。お金を出せば新品が買えるというこの状況が重要なわけです。

行くか、静岡。

眼鏡フレームを買うためだけに静岡まで行ってきた

事前にお店に電話で問い合わせて在庫状況を確認したのちに静岡県清水市まで行ってきました。日帰りで。

片道およそ2時間弱。着いた先のお店は昔ながらの町の眼鏡屋といった小さな佇まい。店員の方に名乗って事前に連絡した旨を伝えると、取り置きしていただいていた数本のフレームを持ってきてくれました。

おぉ…、まごうことなき小竹長兵衛作。飴のような質感、「手造」と小さく書かれた刻印。手持ちの使い込んで古くなったものに見慣れた僕にとって新品のピッカピカなフレームは、それはそれは美しく輝いていました。

あいにく手持ちのと全く同じモデルは既に売り切れていたため、同じ形状の色違いを選択。いま使ってるフレームが駄目になったときのためのストックと考えていたので、今回はレンズを入れずにそのまま購入しました。

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思い切って二本くらい買ってしまおうかと一瞬悩みましたが、自分にピッタリ似合うものが他になかったのと一本でも15年は使えることが分かっていたので、納得の一本だけを買って帰ることにしました。大満足。

毎日使うものだからこそ自分にとって最高のものを

眼鏡に限らず毎日使うものだからこそ一番良いと思えるものを買うようにしています。「その時の経済力で可能な限りの予算を確保する」ことをポリシーにしているので自然と高い買い物になりがちですが、それで毎日好きなものに囲まれた生活が出来るなら大した問題ではありません。

高価なものはそれだけ作りもしっかりとしていて丈夫なので、手入れさえ怠らなければ「一生モノ」にさえなりえます。眼鏡はその最たるものかもしれません。単なるファッションアイテムだけじゃなく大切な医療器具なわけですからね。これがあるから生活が成り立つわけです。

だからこそ「(値段とかは関係なく)これが自分にとって最高のものです」と即答できるものを選びたいわけですね。