
VOX AC4C1-12 から AC15C1X に乗り換えた話
そんなわけで6年間愛用し続けた VOX AC4C1-12 を手放し、同シリーズの AC15C1X を買いました。以前より興味はあったものの、まさか本当に入手してしまうとは……。
AC15C1X について

VOX ギターアンプのフラッグシップモデルといえば AC30 ですが、AC15 はこれの派生元にあたるモデルです(15ワット出力の AC15 を2倍にしたのが AC30)。最初に登場したのが1958年なので、その歴史は60年以上。時期によって仕様は多少異なりますが、基本的な設計とサウンドキャラクターはほぼ変わっておらず、クラシカルかつスタンダードなロックギターサウンドが持ち味です。
AC15C1X はその AC15 の現行モデルです。モデル名の末尾に付く「C1X」は、CELESTION Blue という12インチのスピーカーを搭載していることを示しています。出力以外は AC30 とほぼ同じスペックなため、控えめに言って本格的なギターアンプです。
始まりはトレブルブースター探しから
もともとアンプを買い替えるつもりはなく、クリーム時代のエリック・クラプトンやロリー・ギャラガーのようなブルースロックサウンドを真似したくて、かねてより欲しいと考えていました。トレブルブースターとは、中〜高音域を強烈にブーストしつつ低音域を思い切りカットする昔ながらのエフェクターであり、現代のオーバドライブ系よりも太くてザラついた音色が特徴です。
60s、70s ロック好きにとっては魅力的なエフェクターなのですが、現代の主流ではないので都内の楽器店を巡るも店頭在庫がなかなか見つかりません。ECサイトなら多少は見つかるものの基本的に高価格なものが大半なので、試奏せずに買うのはためらわれます。
渋谷のギターショップにて
ここはフーチーズ渋谷店。以前 Paul Reed Smith McCarty 594 SC を購入した店あり、その後もギターのメンテナンスなどでときどき世話になっているお店です。マニアック商品をたくさん扱っているので「もしや」と思って覗いてみたら、案の定(?)マニアックなトレブルブースターが目立たたない場所にたくさん陳列されていました。
※ うろ覚えだが、だいたいこの辺りのラインナップだったと思います。
とりあえず試奏させてもらう
—— 狙っている音色のイメージなどはありますか?
「やっぱりクリーム期のクラプトンやロリー・ギャラガーですかねぇ」
—— なるほど?
「VOX AC4C1-12 を自宅で使っているんですが、トレブルブースターを繋げば良い具合の音が出せるのではと思いまして……」
—— AC4…? ふーむ、それなら……
そう言ってエフェクターと一緒に用意してくれたアンプが VOX AC15CX1。この店は VOX のアンプで試奏させてくれるなかなか珍しいお店。サイズが異なるとはいえ、同じブランドのアンプを使わせてもらえるのはありがたいです。
—— AC4 は AC15 や AC30 のトップブーストチャンネルを落とし込んだ仕様なのですが、実はトップブーストって歪み系エフェクター類を活かすのが難しいんですよ。
「え、そうなんですか」
—— こういうのはノーマルチャンネルに繋ぐと良いですよ。このアンプはノーマル・トップブーストの両方を持っているので比較してみましょう。
ノーマルチャンネルの存在は知っていましたが、実は使うのはこの日が初めて。早速これにトレブルブースターを繋いで弾いてみると、いきなり超絶かっこいい音が飛び出してきました。今まで自分が出せたことのない音。こんな簡単にこんなご機嫌な音が出せてしまうのか……。
続けてトップブーストチャンネルに切り替えてみると、たしかにノーマルのときよりも音が濁っている印象。雑味の多いコーヒーのような感じでしょうか。正直このときの僕の耳ではそこまで酷い音とは思いませんでしたが、普段からノーマルチャンネルに慣れている人にとってはかなりの違和感なのでしょう。良し悪しで言えば明らかにノーマルチャンネルに軍配が上がるのは同感です。
ノーマルチャンネル自体の音が素晴らしい

何も考えず普通に弾いているだけなのに、なぜかいつもよりも良い音しか出てきません。クリーントーンは薄いガラス割ったような鋭い音色にも関わらず、ちっとも耳に痛くない。きらびやかで透明感がありながら、音に厚み(奥行き感)もある。そしてどこまでも高音域が伸びていく。英語圏ではこのような VOX アンプの音色を "Chime" と表現するそうですが、何となくその意味が分かった気がします。確かにチューブラーベルズの高音域の響きを彷彿させます。
コントロールノブはボリュームとマスターボリュームしかないため、音作りに迷いが生じません。ピッキングの違いが如実に反映されるので、弾き方によって音色を変えられます。これは楽しい。これは良い。
—— エフェクターを買い足すのでなく、アンプを替える方が良さそうですね。今お使いのエフェクターのポテンシャルも最大限発揮できますし。
全く予想外の展開ですが、ノーマルチャンネルに魅了された今となってはそうとしか言いようがありません。トレブルブースター探しの旅がまさかこんな展開になるとは……。
後日ペダルボードを引っ提げて再訪
過去の記事 にも書いたとおり、AC4C1-12 はとても気に入っているアンプです。ここしばらくは様々な歪み系エフェクターとの組み合わせを試していたのですが、どうも自分の求める音色に到達できずモヤモヤしていました。そんなときに出会ってしまったのが AC15 のノーマルチャンネル。良い音が出せないのは自分の実力不足だからと悪戦苦闘し続けていたのですが、本当にアンプが原因なのかどうかを確かめるべく、後日ペダルボードを引っ提げて再訪しました。

今まで聴いたことのない良い音色
全体的に濁りの取れたスッキリとした音色がします。SUPA-LEAD は AC4 だと音がグシャグシャに潰れて全く抜けてこなかったのが嘘みたいに晴れやかでパワフルな音に。他のエフェクターたちも同様に、今まで聴いたことのない整った良い音色を出してくれます。これは凄い。ノーマルチャンネル恐るべし。
そして購入へ

大きくて場所を取るため、新居に引っ越してから買うことも検討したのですが、在庫が残り1つしかなかったうえに他店でも殆どが売り切れとなっていたので、この機を逃すまいと即決しました。
ちなみにトレブルブースターは買ってません。
AC4 は手放すことに

同系統のアンプを複数持っていても仕方ないので、AC4 は手放すことにしました。とはいえ非常に気に入っていたので、手放すのは少し寂しい気もします。いい人に買ってもらえるといいなぁ。
そもそも 15ワット出力の真空管アンプなんて自宅で使えるのか
4ワット出力の AC4 ですらボリューム調整を間違えるととんでもない爆音がでるのだから 15ワット出力なんてもってのほかと思っていましたが、意外となんとかなるというのが現時点での所感です。ギターアンプを含めアナログなオーディオ機器はある程度ボリュームの目盛を上げないと使い物にならないと勝手に思い込んでいたのですが、必ずしもそうではないようです。少なくとも AC15 は低音量からしっかりとその特性を発揮してくれるらしく、時計8 ~ 9時くらいのボリュームで十分に良い音が出せます。これは意外でした。もちろんフルボリュームにすれば極上の音色が出るのでしょうが、それはリハーサルスタジオなりでやるしかないでしょう。
トップブーストチャンネルは使うのか
しばらくはノーマルチャンネルの音色を堪能することになりそうですが、せっかくなのでトップブーストチャンネルも使いこなしたいところです。基本的に AC4 と同じ傾向の特性なのですが、音圧が段違いなのでそこをうまくコントロールできるようになりたいですね。
総括
AC15 の良い点
- ノーマルチャンネルの音色が素晴らしい。とにかくこれに尽きる。
- コントロール類が非常にシンプルなので、音作りに迷わない。というより迷う余地がない。
- 癖のないプレーンな音色なので、エフェクター1つで Marshall のような音色も作れる。
- ※ 逆に Marshall のアンプで VOX のような音色を作るのは難しいと思う。
- ピッキングのレスポンスが良い。弾き方によって音色を変えられる。
- トップブーストチャンネルの Volume ( ≒ Gain ) をめいっぱい上げたときのオーバードライブサウンドがかっこいい。エフェクターでは作れない類の音だと思う。
- フルチューブで 15ワット出力のアンプとしては破格の値段。同クラスの他社製品なら倍近くはするはず。
AC15 のイマイチな点
- 筐体が大きくて重い。22kg はもはや持ち運び困難なレベル。
- コロナ禍の影響が残っているのか不明だが、流通量が少なく、入手難易度が高い。
AC4C1-12 と比較してみて
- ヘッドルームが段違いに広いため、同じ音量感でも音圧は AC15 の方が高い。
- 低音域の存在感が凄まじい。決してやかましいということはなく、むしろ心地よい。高級オーディオを聴いているような感覚になる。
- トップブーストの音色自体やピッキングの追従性に優劣は感じられない。
アンプシミュレーターといったデジタル音源にも VOX のアンプはありますが、必ずと言っていいほどトップブーストチャンネルをシミュレートしたものしかありません。そのためノーマルチャンネルを体験するには現物を使うしかないわけですが、まさかこれほどまでに優れていたとは思いませんでした。良い買い物をしたと思います。